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2007.11.2 Media 弊社会長・依田がTYサポート・プログラムについて
                      「レコード芸術」2007年11月号で語りました。

「TYサポート・プログラム」をご存知ですか?
(「レコード芸術」 2007年11月号より  文・ 山崎浩太郎氏)

 TYサポート・プログラムの存在を知ったのは、アントネッロによるアルバム『天正遣欧使節の音楽』のジャケットを読んだときだった(これは、まさに日本の演奏家にしかできない企画として、その意義と価値の大きいものだ)。物哀しくも印象的な表紙絵のついたジャケットの終りまで読んだとき、「TYLはクラシック・アーティストの創作・表現活動をサポートします」という言葉に始まる1頁に出くわした。何だこれ、と思ってパッケージ裏を見ると、下部に「tyl」なるロゴ・マークが入っていた。
このプログラムは、2005年7月に募集されたのを第1回とし、今年1月の第4回まで、年2回のペースで行なわれている(11月には第5回の募集が行なわれる)。「日本で発売するクラシックの録音企画を持っている演奏者、制作者」を対象とし、その録音企画に対して、その発売後に100万円を支給するというものである。発売後、というのがこの企画の面白いところで、きちんと形にしなければもらうことができない。
審査は匿名の識者3、4名によって行なわれ、これまでは1回の募集につき5点(第3回のみ3点)の企画がサポートの対象となっている。つまり大雑把にいえば、1年に10点の国内制作CDがそれぞれ100万円の支援を受けているわけだ。
これまでのCDリストを見ると、成田為三や渡辺茂夫など邦人の作品集も目を引くが、そればかりでなく西山まりえの『トリスタンの哀歌』のような古楽や、リコーダー、三味線、聖トーマス教会のオルガンなども入っている。けっして作品本位ではなく、演奏する演奏家の企画力・演奏力こそがサポート対象に選ばれる鍵のようだ。
現在は1回の募集に20ほどの企画が参加しているそうだが、募集数も支援数ももっと増えることを主催者側は望んでいる。その主催者の株式会社「ティー ワイ リミテッド」は、1990年代の日本レコード界に一大旋風を起こしたエイベックスで会長兼社長を務めた、依田巽氏が経営する企業である。依田氏にお話をうかがってみた。

――どうしてこのようなプログラムを立ち上げられたのですか。

 私は、レコード産業で一応自分なりのビジネスを一通り完成させ、資産形成もしたので、クラシックの人はなかなかCDを出すことが難しいという状況のなかで、少しでも貢献できればと思いました。作品の企画が立っていて、かつCDの制作発売に足る質を備えた演奏家、作品があれば、支援したいのです。
自分は、音楽には比較的多く囲まれてきたんですけど、シンセサイザーの、いわゆる四つ打ちのダンス・ミュージックとか、「Jポップ」だとか、そういうビジネスを中心にやってきました。しかし本質的に音楽はクラシックがすべての源、ルーツであり、そしてクラシックの良さも自分なりに知っているつもりです。クラシックの方って環境的に恵まれないという思いがありました。演奏家になるのも大変だし、ましてや自分の作品(演奏)をCDとして発売するとなるともっと大変で、「この人が?」というような有名な方がCDを出したことがなかったりします。そういう意味でクラシック制作のサポートをちゃんとしてあげた方がいいのかなと。
そこで、「リリースできる環境を整えたんだけれども、レコード会社がそのCD制作をするにはリスクが高すぎてなかなか制作費も出してもらえない、自分でも出せない」という人に、100万円を出すことにしたわけです。
100万円の根拠はこういうことです。たとえばメジャー・レーベルなどの場合、何枚売れるかと売上げを試算してみます。そしてあとどのくらいあれば採算がとれるかと考えると、大体100万円くらいなんです。つまり、経費が概算で300万くらいだとすると、売上げで200万円くらいは見込めるので、あと100万あったら企画が通る。足りなければ切り捨てられてしまう、そういうところを補助しようということなんです。そういう意味では、いい企画を持っているメジャー・レーベルが、あと100万円何とかしたいということで応募してもらうのも、我々としては趣旨に適っているわけです。演奏家の自己実現、人材開発につながるわけですから。ただ、自助努力もしてくださいということで、制作費の全額援助はしませんし、宣伝、販促、販売等についての援助・助言等は行いません。

――なぜ演奏会へのサポートはあっても、レコーディングにはなかったのでしょう。

 レコードとは、一般的にビジネスだと考えられている。一方(日本人の)演奏会というのは、あまりビジネスとは見られていない。実際演奏会もちゃんとしたビジネスで、収益を上げている人もいるのだけれども、演奏会は何かアーティスティックな印象があるので、色々な企業が援助するんでしょうね。
しかしレコード会社がやるレコードはビジネスだから、別に支えなくてもいいだろうという思いが、特に日本の企業にはあるんです。でも他の国では、たとえばフランス・テレコムなどが支援している。フランスとかドイツでは、演奏活動と同じようにレコーディングも支援対象に含まれていて、日本の企業もヨーロッパの支社では同様の活動をしているのです。日本にもそういうのがあるといいなと、組織的に始めてみようと思ったんです。
いまは1社単独でやっていますけど、将来的には参加企業が増えて、ここを窓口にして、ある企業が3点、ここが3点、という感じで年間30点くらいに増えるといいと思っています。
売れるものも、あまり売れないものもあるようですけれど、売れるものを探すより、「よくこんなのが出たね」「出してくれてありがとう」という声が我々にとっても嬉しいのです。だからマニアックなものにはなりやすいですね。もちろん「ショパンのバラードを録りたい」なんて応募者もいますが、そういうものもクオリティが高ければ十分可能性はあります。

――審査員が匿名なのは?

 狭い世界だから、名前を出しても賄賂を持っていく人はいないでしょうけれど(笑)、そのほうが審査する方も楽だろうと。基本は3人ないし4人、選択に偏りが出ないよう、完全な固定ではなく、何年かで交代するとか、長い目で見てローテーションはつけようと思っています。最初は約70の応募がありましたが、2回目以降からは1レーベルから企画2つまでと限ったので、20くらいに絞られてきました。
それを審査員全員が全部聴きます。審査員は日本の演奏家に強い人たちです。審査では5点ほど選ぶのですが、上の2点くらいはすんなり一致して決まり、残りは意見が分かれることが多いです。でもいい作品はやはりいい音をつくってくるし、応募する上での熱意も伝わってきます。そういうところで真摯さの見えるものが、結果として残りやすいですね。
審査では音だけで写真は使いません。パッケージになってから、「ああこの人か」と。パッと見でいいのは、私共が支援しなくても他で出しますよ。最近は、クラシックもルックスで売る時代に入ったようですけど、クラシックの音や声っていうのは全身で出すものでしょうボディラインばっかり気にしてダイエットしているようじゃ、いい音は出ないと思うんですけどね。
2年、3年という短いスパンではなく、クラシックはもっと長いスパンで売ることを考える必要があります。演奏家個人が原盤権を持つようにすれば、20年、30年と売り続けることもできる。TYサポートにそんな支援ができればと思います。また、10回くらいになって受賞者が増えてきたら、ホールを借りて彼らによる演奏会もしてみたいですね

*このインタビューは音楽之友社様および山崎浩太郎様の許可を得て、依田のインタビュー部分のみを掲載しています。TYサポート・プログラムの特集企画(全4ページ)全文は、レコード芸術2007年11月号にてご覧ください

 

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